この記事の要点
カイロプラクターに必要なのは、特別な指先の感覚ではなく「諦めずに続ける力」です。今できないことは、将来の成功と無関係です。志望動機は、最初は不純でも構いません。仕事を通じて動機の質を上げていけば、この仕事は一生の楽しみになります。学長の経験から解説します。
徒手療法大学 学長の榊原です。
学生の皆さんから、あるいは入学を考えている方から、よく聞かれることがあります。「自分にカイロプラクターの才能はあるでしょうか」。この記事では、才能、志望動機、仕事の楽しさについて、私の考えをまとめます。
1. 才能は必要か:残るのは「続けた人」
学生がよく壁にぶつかるのは、指先で脊椎の動きが感じられない、アジャストメントがうまく入らない、といった場面です。そこで「自分には才能がない」と思ってしまう人がいます。
私は1998年に米国でDCライセンスを取得しましたが、最初から「ゴッドハンド」だったわけではありません。皆さんと同じ不安を抱えていました。それでも続けて臨床に立ち、いまに至っています。この仕事で生き残るのは、天才ではなく、諦めずに続けた人です。
2. 伸びる人と、伸びない人の違い
触診の実技で、はっきり分かれる場面があります。
- 伸びない人: すぐに手を離して「何も感じません」と言う。
- 伸びる人: 指を置いたまま、「ここか、あるいはこちらか」と探し続ける。
この仕事で必要な「才能」は、指先の敏感さではなく、地味な作業を粘り強く続ける力です。
そして、「今できない」ことは、将来の成功とは関係がありません。 具体的には、こうします。
- 触診が難しければ、骨格標本に、ほかの人の倍の時間触れる。
- 英語の論文が難しければ、1日1行だけ訳す。
医学も徒手療法も魔法ではありません。正しい努力を続ければ、誰でも学べる科学です。
3. 「好き」は才能ではなく、続けた結果
数学者の岡潔は、「好きだからやるのではない。極端にやるから好きになるのだ」という趣旨の言葉を残しています。多くの人は、才能があるから好きになる、と考えます。私は順序が逆だと考えています。最初は興味が薄くても、徹底して取り組むうちに、好きになるのです。
カイロプラクティックも例外ではありません。解剖学、生理学、アジャストメントの技術は大変で、不器用さに悩むこともあるでしょう。それは「まだ転機に届いていない」だけかもしれません。井戸を掘るとき、浅いところで止めれば水は出ません。「水がない(才能がない)」と結論する前に、もう少し深く掘ってみてください。
数年、数十年と踏みとどまった人だけが、人体の精巧さに感動し、自分の手に患者さんの回復力が応える喜びを知ります。
4. 志望動機は不純でもよい:3つの報酬
「しっかり稼ぎたい」「もっと自由に働きたい」「ほかにやりたいことがない」。こうした動機から始めても構いません。高い使命感を掲げて入る人ほど、現実にぶつかって挫折することがあります。大切なのは、最初の動機に何年もとどまらないことです。仕事を通じて得られる報酬は、段階的に変わっていきます。
- 技術が喜びになる(有能感の報酬)。 解剖学の知識が指先の感覚とつながり、ただの「背中」が、一つひとつの椎骨の立体的な配列として見えてきます。習った手技が効き、患者さんの可動域が目に見えて変わる。この達成感は、お金より強い動機になります。
- 患者さんの人生に貢献する(仕事の報酬)。 孫を抱っこできなかった方が「昨日は一日中抱っこできたのよ」と話してくれる。痛みで引退を考えた選手が、競技に復帰する。痛みを取る以上に、患者さんが諦めていた可能性を取り戻す手助けをしている、と実感します。
- 人として成熟する(成長の報酬)。 長く臨床を続けると、治りにくい症例や、難しい要望に出会います。そのとき、運や相手のせいにせず、「自分に何が足りないか」「この患者さんは何を教えてくれているか」と問う。困難が、自分の器を広げる試金石になります。
初めは生活のための仕事でも、やがて、人生を完成させる道に変わります。報酬の質を、一段ずつ上げていってください。
5. お金か、情熱か
入学を考えている方に、あえてお伝えします。お金が主な目的なら、この道は途中で挫折するか、資格はあっても患者さんの役に立てない治療家になるリスクがあります。カイロプラクティックは、基礎医学、神経学・整形外科学的な検査、高度な施術技術と、学ぶことの多い仕事です。
それを支えるのは情熱です。経済的な成功は、情熱を追った結果としてついてくることが多い、と私は考えています。問いかけです。「もし、お金の心配が一切なくなったら、あなたは何をしたいですか?」 それでも患者さんを診て、学び続けたいと思えるなら、この道に向いています。
6. 仕事を楽しむという戦略
好きなことを仕事にする勇気。 「趣味を仕事にするな」という昔ながらの助言があります。私は、いまの時代には合わないと考えています。人生の多くの時間を占める仕事は、自分に合ったものを選ぶほうが、意欲も成果も続きます。私がこの道を選んだ理由は3つあります。人体の仕組みへの興味、自分の手で痛みを和らげる満足感、組織の歯車ではなく自立した専門家として働ける自由です。
「Have to」から「Want to」へ。 私自身、留学した最初の頃は、課題の多さに圧倒され、仕事を楽しむ余裕がありませんでした。次のレンガのことしか考えられない、レンガ職人のような気持ちでした。転機は、免許を取り、患者さんを診て、仕事の奥深さに気づいたときです。「やらなければ」が「やりたい」に変わる。そして、行動が興味を生むことも多くあります。取り組み続けるうちに、好きになっていくのです。
努力する人は、楽しんでいる人には勝てない。 山口周氏の『人生の経営戦略』にある言葉です。楽しむことで技術が伸び、成果が出て、患者さんが集まり、経済的な安定がついてきます。楽しむことは、最強の生存戦略だと感じています。
点と点をつなぐ。 スティーブ・ジョブズは、「未来を見て、点と点をつなぐことはできない」と語りました。解剖学の暗記も、アジャストメントの反復練習も、いまは意味が見えない「点」かもしれません。振り返ったときに、一本の道になります。そして、毎回の患者さんが最後かもしれないという気持ちで臨めば、今日の施術は昨日より良くなっているか、と自分に問い続けられます。
ワクワクに従って、まず試す
私がカイロプラクティックの道に進んだのは、収入や安定を計算したからではありません。スポーツ医学に惹かれ、アスリートを診られる治療家になりたい、という純粋なワクワクが出発点でした。「やって楽しいことしかやらない」。これが、私の一貫した行動指針です。
アメリカでDCライセンスを取った後は、歩合制で収入が少ない時期もありました。それでも悲観しなかったのは、週に数人でも患者さんを診られることが貴重で、仕事そのものが好きだったからです。患者さんの変化を見て、新しい発見をする。そうした小さな報酬が、お金以上に私を支えました。
その後の歩みも、同じ形でした。徒手療法大学の設立、ミャンマーでのボランティア施術、タイの大学での解剖実習。どれも、ふと湧いた「やりたい!」に素直に従い、すぐに試した結果です。遠い大きな目標にこだわるより、目の前のワクワクに従うほうが、次の「やりたい」を連鎖的に生んでくれます。
「自分が何をしたいか分からない」という人は、ワクワクを何度も無視してきて、感じる力が鈍っているのかもしれません。そして、試すことに失敗はありません。試さないことが失敗です。 試してみて「自分には合わない」と分かれば、それは次のワクワクにつながる発見です。人生を、自分で運営する研究開発(R&D)のプロジェクトだと考えてみてください。毎日、ワクワクに従って小さなことを一つ試す。それが、後悔しない生き方につながります。
7. 向いている人の条件
ここまでの内容から、向いている人の条件をまとめます。
- うまくいかないとき、理由を探して諦めるのではなく、できるまで続けられる。
- 指先の感覚が不安でも、手を置いたまま探し続けられる。
- 人体の仕組みに、純粋な興味がある。
- 患者さんが以前の生活を取り戻すことに、喜びを感じられる。
- 困難を、成長の機会として受け止められる。
すべてを最初から備えている必要はありません。当てはまる項目が少なくても、続ける中で育つものばかりです。
入学の条件や学費は、公式サイトの募集要項をご覧ください。資格についてはカイロプラクティックの資格に関する記事で解説しています。
よくある質問
Q. 不器用でもカイロプラクターになれますか?
なれます。必要なのは指先の敏感さより、感じられるまで探し続ける粘り強さです。触診が難しいなら、練習量を人の倍にする。そうして伸びた学生を、私は数多く見てきました。
Q. 志望動機が「収入」や「自由な働き方」でも問題ありませんか?
問題ありません。大切なのは、動機を成長させていくことです。技術が喜びに変わり、患者さんへの貢献が報酬になる。その変化が、続ける力になります。
Q. 途中で「向いていない」と感じたらどうすればよいですか?
まず、いまできないことと、将来の成功は無関係だと思い出してください。辞める理由を探す前に、もう一段深く掘ってみる。壁に感じるときは、転機の手前にいることが多いからです。
Q. 社会人からでも間に合いますか?
間に合います。働きながら学ぶ場合のスケジュールは、働きながら資格を取る記事で解説しています。
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榊原 直樹(Naoki Sakakibara, DC, DACBSP, PhD)
徒手療法大学(College of Manual Therapy)学長/スポーツ医学&カイロプラクティック研究所 院長。1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。2007年の帰国後、岐阜大学でスポーツ医学の博士号を取得。名古屋で臨床を続けながら、後進の育成に取り組んでいる。