カイロプラクターの心構え|自分の頭で考え、心を整える5つの習慣【学長コラム】

この記事の要点
カイロプラクターの心構えは、技術の上に重ねる「もう一つの専門性」です。①流されず自分の頭で考える ②心の雑音に気づく ③基準を外ではなく内に置く ④自分の健康を最優先にする ⑤心を整える習慣を持つ。この5つを、学長の臨床と教育の経験から解説します。

徒手療法大学 学長の榊原です。

カイロプラクターを目指す皆さん、日々の勉強は進んでいますか? 解剖学や生体力学の知識の更新、アジャストメントをはじめとする技術の修練は、私たちにとって当たり前の「義務」です。

しかし、あえて言います。それだけでは、治せるカイロプラクターにはなれません。 同じ知識と技術を持っていても、結果に差が出る。その差を生む核心の一つが、治療家の「心構え」(マインドセット)です。

この記事では、これまで私が学生や若い治療家に伝えてきた心構えを、5つにまとめました。

1. 流されず、自分の頭で考える

ナポレオン・ヒルの著書『悪魔を出し抜け!』には、「悪魔」が人間の98%を支配していると語る場面があります。彼らは自分の頭で考えるのをやめ、環境や習慣に「流される」人々だ、というのです。

「私は人間の98%を支配している。彼らは自分の頭で考えることをやめ、ただ環境や習慣に『流される』者たちだ」

治療家にも当てはまります。技術の習得には熱心でも、自分の規律や信念を持たず、周囲の影響を受け続ける。そうした心には隙間が生まれ、「治せなかったらどうしよう」「患者さんが離れたらどうしよう」という不安が入り込みます。一度不安に支配されると、新しい学びも患者さんとの対話も、恐れの対象に変わってしまいます。

最大の防御は、マニュアルや他人の意見を鵜呑みにせず、自分の頭で考え、判断する習慣を持つことです。

2. 心の「雑音」に気づく

発明家ニコラ・テスラは、「現実は遅れてやって来る。先に”望む波”を整えよ」と語り、焦りからの努力は逆効果だと警告しました。焦り・不安・怒りといった感情を「雑音(ノイズ)」と呼んだのです。

臨床に置き換えてみましょう。「早く治さなければ」「別のテクニックを使わなければ」という焦り、私生活の悩みによる不安。これらはすべて施術者の心の雑音です。雑音があると、どれほど優れた知識や技術も活かせません。雑音が直感や洞察を遮るからです。

ここで大切なのは、雑音を無理に消そうとしないことです。「いま自分は焦っているな」「雑念があるな」と気づくだけで、雑音は自然に小さくなります。恐れや不安も同じで、最初は反応してしまって構いません。気づきを繰り返すうちに、その力は弱まっていきます。

雑音が静まると、集中力が増し、「ここを調整すべきだ」という洞察が自然と湧いてきます。

3. 基準を外側ではなく内側に置く

SNSを開けば、他院の繁盛ぶりや海外の最新テクニック、同業者の成功談が否応なく目に入ります。社会学者デイヴィッド・リースマンは『孤独な群衆』で、他人の反応や流行を常に気にする「他人指向型」の人々を描きました。

この状態が行き着くのが、いわゆるセミナージプシーです。流行のセミナーを渡り歩く人が求めているのは、技術の向上というより「これさえ学べば安心だ」という外からの承認です。しかし臨床の正解は、外側には落ちていません。

「ゴッドハンドと思われたい」「悪い口コミを書かれたくない」といった思いが判断に混じれば、目の前の患者さんを冷静に見ることはできません。基準を内側に持つ治療家は、「流行っているから」ではなく「この患者さんの状態に必要だから」という確信でアジャストメントを行えます。判断にぶれがなければ、それは自信となって指先に伝わります。

4. 自分の健康を最優先にする

私にとって人生の優先順位は、第1位が「健康」、第2位が「仕事」です。カイロプラクティックは私にとって、いわゆる労働ではなく、探求心の尽きない「真剣な趣味」であり、ライフワークです。それでも、健康はその上に置いています。

自らの心身の健康管理ができていない人間に、他人の健康管理を手助けする資格はない。

施術者の乱れた呼吸、指先から伝わる迷いは、言葉にしなくても患者さんに伝わります。施術者自身が心身ともに整っていることは、患者さんとの信頼関係(ラポール)を築く最低条件です。治療効果は手技の物理的な力だけでなく、この信頼関係の強さを反映します。

私自身は、飲酒した翌日に判断力と感覚が落ちることに気づき、10年以上前から一滴も飲んでいません。我慢ではなく、最高の仕事をするために不要なものを手放した、という感覚です。

5. 心を整える習慣を持つ(瞑想)

私は2000年にゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想に出会って以来、朝晩の瞑想を日課にしています。歯磨きが歯の掃除なら、瞑想は心の掃除のようなものです。日々の生活で心にたまるノイズを拭き取ると、視界が開けたようにすっきりし、患者さんの状態がよく見えるようになります。

臨床の論理は単純です。

  1. 客観的に症状を見られなければ、患者さんの状態を正しく把握できない。
  2. 正しく把握できなければ、背後にある原因構造を特定できない。
  3. 原因構造を特定できなければ、治療で結果を出せない。

解剖学の知識(Science)も、アジャストメントの技術(Art)も、最初の「観察」が感情や主観で歪めば機能しません。タイの高僧アーチャン・チャーは、訓練されていない心を「野生の猿」にたとえました。ブッダは「心の奴隷ではなく、心の主になりなさい」と説いています。

瞑想は、そのための訓練です。詳しくは、関連記事「瞑想で養う臨床の客観力」もご覧ください。

今日から始める3つの実践

  1. 触れている時の心を観察する。 患者さんの背中、あるいは実技練習の相手の背中に触れている間、自分の中にどれだけ雑音があるかを、ただ眺めます。消そうとしなくて構いません。
  2. 毎日5分、静かに座る。 呼吸と体の感覚を観察します。長さより、毎日続けることを優先してください。
  3. 朝、鏡を見る。 「この先生なら任せたい」と患者さんが思う顔をしているか、心に余計なノイズはないかを確かめます。

学生の皆さんへ。勉強熱心な人ほど、知識の詰め込みや新しいテクニックの習得に必死になりがちです。そこに「焦り」が混じっているなら、一度立ち止まってください。患者さんを治すのは教科書の文字ではなく、その知識を運用する、あなた自身の整った心と体です。

今はすべて理解できなくても構いません。臨床で壁にぶつかったとき、「そういえば学長がそんなことを言っていたな」と思い出してもらえれば十分です。大切なのは知るだけでなく行動に移すこと、つまり「知行合一」です。

よくある質問

Q. 心構えは、技術や知識より重要ですか?

どちらが上ということではありません。知識と技術は必須の土台で、心構えはそれを臨床で正しく機能させるための条件です。どちらかが欠けても、結果は安定しません。

Q. 瞑想を始めたことがなくても大丈夫ですか?

大丈夫です。まずは毎日5分、静かに座って呼吸を観察するところから始めてください。うまくやる必要はなく、雑念に気づくこと自体が練習です。

Q. 不安や焦りがなくならないのですが。

なくす必要はありません。不安や焦りに気づくことを繰り返すと、その影響力は徐々に弱まります。最初は反応してしまって大丈夫です。

Q. セミナーに通うのは悪いことですか?

いいえ。問題はセミナーそのものではなく、外側に正解を求め続けて自分の基準を持てなくなることです。学んだことを、自分の頭で考えて臨床に落とし込めているかが分かれ目です。

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榊原直樹

この記事を書いた人:榊原 直樹

徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)

1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。

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徒手療法大学学長コラム。カイロプラクターに必要なのは知識と技術だけではありません。ニコラ・テスラの「波を整える」哲学を基に、カイロプラクターとしての心構えや、施術中の「雑音」への気づき方を解説。真の健康を導くためのマインドセットとは。
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