この記事の要点
カイロプラクターの成長速度を分けるのは、才能よりも「素直さ」です。初期は自己流を捨てて型を守る(守破離)。ただし、素直さは思考停止とは違い、受け入れた後は自分の頭と体で検証する。成功体験も、必要なときは手放す。この記事では、その考え方を学長の臨床と教育の経験から解説します。
徒手療法大学 学長の榊原です。
学生や若い治療家を長年見てきて、技術や知識の習得が驚くほど早い人には、共通点があります。それが素直さです。素直な人は最強か、と聞かれたら、私は「最強の武器の一つ」と答えます。ただし、使い方には条件があります。
目次
1. 成功法則の最初に出てくる「素直さ」
犬飼ターボさんの『CHANCE(チャンス)』は、小説仕立ての成功哲学書です。物語の中で、成功者が主人公の青年に最初に教える成功の法則が、素直さでした。
「成功とは学びの過程であり、学ぶということは素直に受け入れることだ」
「素直になるとは、かっこつけるのをやめることでもある」
この定義は、私が日々の臨床と教育の現場で感じていることと重なります。
2. 素直さが、治療効果と成長スピードを変える
患者さんの場合。 臨床の実感として、素直な人は症状の改善が早い傾向があります。生活指導やアドバイスに「でも」「だって」と反論したり、自己流の解釈を挟んだりせず、まず「やってみます」と受け入れる。自分の身体のサインや専門家の意見を素直に聞ける柔らかさが、結果として回復を後押しするのだと感じています。
学生の場合。 習得が早い学生は、例外なく素直です。最初は誰でも未熟です。そこで変なプライドが邪魔をして、分かったふりをしたり、指摘を拒んだりすると、成長はそこで止まります。変化を恐れず、教えを乞える素直さは、プロへの階段を駆け上がる最強の武器になります。
3. 守破離:初期は自己流を捨てて、型を守る
「知っていること」と「できていること」は、まったく別物です。どれほど医学論文を読み、解剖学の知識があっても、それを患者さんの体に還元できる技術が伴わなければ、臨床では力になりません。
『ザ・シークレット』に出演したボブ・プロクター氏は、才能ゼロから成功するための要素として、「師の教えを100%守る」ことの重要性を強調していました。日本には古くから守破離という言葉があります。まず型を守り、次に破り、最後に離れる。
多くの学生が、少し学んだだけで「自分ならこうする」「こちらのほうがやりやすい」と、自己流のアレンジを加え始めます。はっきり言いますが、初期段階では、これは絶対にやってはいけません。 体がまだ正しい動きを覚えていない段階のアレンジは、悪い癖の定着にしかならないからです。自己流を捨て、師のやり方を変えずにコピーする。この愚直な素直さが、実は達人への最短の道です。
型を身につけるには、繰り返すしかありません。理論を、指先の感覚や重心移動として体得するには、何千回、何万回という反復が必要です。そして、「自分は不器用だから」「あの先輩は才能があるから」と限界を決めないこと。手技は特別な人だけの神業ではありません。正しい知識と、素直に型を守る心と、泥臭い反復があれば、誰でも高いレベルに到達できます。習慣として続けるコツは、カイロプラクターの勉強法・習慣化の記事で詳しく書いています。
4. 素直さと思考停止は違う
ここで一つだけ、強く注意しておきます。私が言う素直さは、言われたことをすべて鵜呑みにして、無条件に受け入れることではありません。素直さは必要ですが、思考停止になってはいけません。
大切なのは、一度受け入れた後に、必ず「自分の頭と体で検証する」ことです。
- 頭で検証する。 教わったことに、理論的な矛盾がないかを考える。
- 体で検証する。 論理的に納得できたら、実際に手を動かして試す(学生ならテクニックとして)。
- 結果で検証する。 結果が出るか、再現性があるかを確かめる。
そこまで確かめて納得したものを、初めて自分の中に取り込めばよいのです。情報を遮断せず素直に聞く「入り口」と、それを厳しく検証する「出口」。この両方を持ってこそ、本物の力が身につきます。
5. 成功体験を手放す
素直さは、経験を積んだ治療家ほど試されます。臨床の経験を重ねると、「この症状にはこのアプローチが効く」という成功体験が蓄積されます。しかし、その成功体験が治療の妨げになることもあります。
前例のない難しい症例に出会うと、多くの治療家は無意識に自分の「勝ちパターン」に頼ります。ところが、それが原因でなければ、同じ治療をしても症状は変わりません。成功体験に固執するあまり、目の前の患者さんの身体が発しているサインに気づけなくなるのです。
私たちが大きく成長するのは、教科書どおりの症例を治したときよりも、今までのパターンが通用しない症例に向き合い、乗り越えたときです。そのためには「以前はこれで治った」というプライドや固定観念を手放し、素直に目の前の患者さんを見直す必要があります。
カイロプラクターとしての価値は、売上や集客数ではなく、患者さんの痛みや苦しみを少しでも和らげることにあります。その価値を提供できる治療家には、宣伝をしなくても、自然と患者さんが集まってくるものです。
6. 信頼される治療家になるための7つの条件
素直に学び続けた先に、患者さんから選ばれ続ける治療家の姿があります。長年の臨床の中で、私が大切だと考える条件を7つにまとめます。
- 学び続ける。 医学とカイロプラクティックの知識は日々進化します。最新の研究(英語論文など)を追い、更新し続けることは、プロの最低ラインの責務です。
- 強みを活かす。 成果は弱点の克服より、強みから生まれます。「あなたでなければ」という価値を提供できます。
- 症状改善の「その先」を見る。 この患者さんの生活の質(QOL)がどう高まるかを考えます。
- 時間を投資する。 施術、学び、休息の配分を整え、患者ケアとスキルアップの時間を確保します。
- マルチタスクを捨てる。 目の前の患者さんと施術に集中することが、精度の高いアジャストメントと洞察につながります。
- 根拠と経験に基づいて決める。 迷ったときは、医学書、過去の症例、最新のエビデンスに立ち返ります。
- 一生涯の探求として歩む。 プロフェッショナルの道は、経済的な成功を超えて、自分の人生を豊かにします。
今日から始める3つの実践
- 指摘を受けたら、まず「やってみます」と言う。 反論や言い訳は、実際にやってみた後にします。
- 習ったことを、自己流にせずに100回繰り返す。 アレンジは、型が体に入ってから考えます。
- 「以前はこれで治った」と思ったら、立ち止まる。 今日の患者さんで、別の可能性がないかを一つ考えます。
いま、治療や学びで壁を感じているなら、一度自分の素直さのメーターを確認してみてください。かっこつけるのをやめ、心を開き、その心で真摯に検証を重ねる。そうすれば、目の前の扉は確実に開いていきます。「チャンス」は、すぐ目の前に落ちています。拾えるかどうかは、あなたの素直さ次第です。
よくある質問
Q. 素直な人は、言われたことを何でも信じればよいのですか?
いいえ。素直さは「まず受け入れる入り口」で、その後に自分の頭と体で検証する「出口」が必要です。両方そろって初めて、本物の力になります。
Q. 自己流のアレンジは、いつからしてよいですか?
型が体に入ってからです。守破離で言えば「守」の段階で身につけた技術が安定し、結果が出るようになってから、検証しながら「破」に進みます。
Q. 経験者でも素直になれますか?
経験者ほど、過去の成功体験が壁になります。「以前はこれで治った」というプライドを一度脇に置くことが、次の成長につながります。
Q. 素直さは生まれつきの性格ですか?
性格というより、選択と習慣です。指摘を受けたとき、まず「やってみます」と答える。この小さな選択の繰り返しで、育てることができます。
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榊原 直樹(Naoki Sakakibara, DC, DACBSP, PhD)
徒手療法大学(College of Manual Therapy)学長/スポーツ医学&カイロプラクティック研究所 院長。1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。2007年の帰国後、岐阜大学でスポーツ医学の博士号を取得。名古屋で臨床を続けながら、後進の育成に取り組んでいる。