【記事要旨】
カイロプラクティックや徒手療法には科学的な根拠(エビデンス)が存在するのか?
本記事は、米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック(DC)であり、日本で医学博士号(PhD・スポーツ医学)を取得した榊原直樹学長によるコラムです。
榊原学長が米国のスポーツ医学ドクター課程で突きつけられた、「カイロプラクターも医師と同じ『医学の共通言語』を話せなければならない」という衝撃的な教えを軸に、なぜ現代の治療家に医学的知識と科学的視点が不可欠なのかを解説。感覚や経験則だけに頼らない、「安全な医療連携」と「正確な鑑別診断」の重要性について、学長の原体験に基づいて語ります。
はじめに:感覚の世界から、科学的根拠のある世界へ
こんにちは、徒手療法大学 学長の榊原直樹です。
入学を検討されている方や、あるいは現役の治療家の方から、よくこんな質問を受けます。 「カイロプラクティックって、本当に効くんですか?」 「そこには科学的根拠はあるんですか?」
日本においてカイロプラクティックは法制化されておらず、残念ながら一部では「怪しい」「非科学的」というイメージを持たれることもあります。しかし、私がライセンスを取得したアメリカや欧米諸国では、医療の一端を担う分野として確立されており、その背景には常に「科学(サイエンス)」と「共通言語」が存在します。
今回は、私がまだ若かりし頃、アメリカでの学びの中で私のカイロプラクターとしてのバックボーン(背骨)となった、ある「衝撃的な言葉」についてお話しします。
米国での衝撃:「カイロプラクターだけの言葉」は通用しない

私が1998年に米国でDC(ドクター・オブ・カイロプラクティック)を取得した後、さらに専門性を高めるため、卒後教育としてDACBSP(Diplomate American Chiropractic Board of Sports Physician:スポーツカイロプラクティックドクター)の課程で勉強していた時のことです。
ある講義で、講師の先生が私たち受講生に向かって、静かに、しかし力強くこう言いました。
「我々カイロプラクターは、他の医療従事者と同様の言語を使用して理解しあえなければならない」
この言葉は、当時の私にとってハンマーで殴られたような衝撃でした。
それまでの私は、どこかで「カイロプラクティックには独自の哲学や理論がある」「我々にしか分からない感覚がある」という、ある種の特権意識のようなものを持っていたのかもしれません。しかし、その先生の真意はこうでした。
「カイロプラクターでないと理解できないような知識、言葉では駄目である。サイエンスとは、そういうことではなく、医療従事者同士が理解し合える言葉を使わなければならない」
つまり、整形外科医や理学療法士、アスレティックトレーナーといった他の医療プロフェッショナルと連携するためには、我々が「閉じたサークルの専門用語」を使うのではなく、「医学という世界の共通言語」で語れなければならない、ということです。
「あぁ、まさにそうだ」
私は深く納得しました。この教えは、私がその後日本へ帰国し、医学部で博士号(PhD)を取得するに至るまでの、そして現在の徒手療法大学のカリキュラムを作る上での、揺るぎない指針となっています。
なぜカイロプラクティックに科学的根拠と「共通言語」が必要か
では、なぜ共通言語(標準的な医学知識)が必要なのでしょうか?それは患者さんの安全を守るためです。
例えば、患者さんが「腰が痛い」と来院されたとします。 もし私たちが「骨盤が歪んでいますね」「気が滞っていますね」といった、曖昧で主観的な言葉だけで説明を済ませてしまったらどうなるでしょうか。患者さんは納得するかもしれませんが、もしその痛みの原因が重篤な内科疾患や、手術が必要な脊柱管狭窄症だった場合、取り返しのつかないことになります。
私たちは必要に応じて速やかに医師へ紹介(リファー)しなければなりません。その際、紹介状に「骨盤の歪みにより…」と書いても、医師には伝わりませんし、医学的な信頼も得られません。
しかし、「L4/L5の神経根症状が見られ、筋力低下(MMT3レベル)と知覚鈍麻があるため、MRIによる精査をお願いします」と、解剖学・神経学に基づいた「共通言語」で伝えることができれば、医師は我々を「話の通じる医療パートナー」として認識してくれます。
これこそが、カイロプラクティックの科学的根拠に基づいた、患者さんの利益を最優先する「安全な医療連携」の第一歩なのです。
診断なき治療は、ただのギャンブルである
共通言語を持つということは、正確な「鑑別診断(Differential Diagnosis)」ができるということです。
徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)では、テクニックの習得と同じくらい、この「医学的知識」と「診断学」に徹底的に時間を割いています。
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解剖学(人体の構造を正確に知る)
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生理学(体の機能とメカニズムを知る)
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病理学(病気の成り立ちを知る)
これらを「カイロプラクティック流」にアレンジすることなく、医師と同等のレベルで学び直すこと。それが、私の考える「プロフェッショナルなカイロプラクター」の絶対条件です。

未来の治療家たちへ:世界で通じる「本物」を目指そう
これからの時代、患者さんはますます賢くなります。「なんとなく良くなった気がする」というレベルの施術や、独特な精神論だけでは、選ばれ続けることは難しいでしょう。
しかし、恐れることはありません。 「なぜ、その治療をするのか?」 この問いに対して、誰にでも(医師にも患者さんにも)通じる共通言語で論理的に説明できる治療家は、日本ではまだ圧倒的に少数です。だからこそ、そこに大きなチャンスと需要があります。
私の役割は、アメリカで受けたあの衝撃——「医療の共通言語を持つ」ことの重要性を、日本の次の世代に伝えていくことです。
「手」で癒やし、「脳(知識)」で連携する。 そんな科学的な視点と広い視野を持った治療家を、私は一人でも多く育てたいと思っています。

この記事を書いた人:榊原 直樹
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)
1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。