徒手療法大学・名古屋校で行われた「腰椎・骨盤の筋膜リリース」の実技講習。今回は、学長自らが学生の施術の受け手となる新たな試みを実施しました。長年の臨床経験を持つ指導者の体を通して学生たちが直面したのは、治療技術における「知識(手順を知っている)」と「実践(現場で結果を出せる)」の間に横たわる途方もない壁です。本コラムでは、本物のプロフェッショナルへ成長するために欠かせない気づきと、未来のカイロプラクターたちへの期待を綴ります。
腰椎・骨盤領域の複雑な構造と実技講習
先日、名古屋校にて腰椎および骨盤領域をテーマにした筋膜リリースの実技講習を行いました。
今回の講習では、まず座学として腰背部の複雑な構造について解説しました。例えば、腰部を覆う胸腰筋膜は後葉、中葉、前葉の三層構造からなり、特に後葉を構成する浅葉と深葉の間の滑走性が臨床的に極めて重要になります。また、この筋膜には固有受容感覚器が高密度に存在しており、腰椎の位置覚や運動覚を脳にフィードバックする重要な役割を担っています。
しかし、今回の講習では、こうした解剖学的な構造を教えるだけでなく、ひとつの新たな試みを取り入れました。それは、「私自身が学生たちのテクニックの受け手になる」というものです。
伝わってきた強い緊張感
予想通りと言いますか、私の体を前にした学生たちからは、非常に強い緊張感が伝わってきました。無理もありません。もし私が逆の立場だったとしても、間違いなく同じ心境になったはずです。
しかし、この緊張感の中で、彼らの手から伝わってくる圧や感覚を通して、指導者として改めて痛感したことがあります。
「治療技術」における「知識」と「実践」の決定的な壁
それは、「治療技術のやり方を『知識』として知っていること」と、「『実践』の場で結果を出せる技術として昇華させること」の間には、途方もなく大きな壁があるということです。
胸腰筋膜の滑走不全が腰椎全体の可動域制限につながることを頭で理解していても、実際の臨床現場で患者さんに結果を出すためには、微細な組織の抵抗感を感じ取り、適切な深さと方向へ的確なアプローチをかけなければなりません。
私自身はカイロプラクターとして長年、数え切れないほどの患者さんの体に触れ、実践を繰り返してきました。今日初めてその治療技術を知識として学んだばかりの学生が、いきなり私と同じレベルの精度で実践できるわけがないのは、ある意味で当たり前のことです。

「結果を出せる技術」への長く険しい道のり
頭に入れた知識を、本当に現場で使える実践的な技術へと磨き上げていく作業は、決して容易なものではありません。それは果てしない反復練習と、感覚を研ぎ澄ます地道な過程を必要とします。
しかし、今回の試みを通して、彼らにとって「手順は合っているはずなのに、何かが違う」という感覚を、私の体を通した直接のフィードバックから肌で感じてもらえたことは、非常に大きな収穫だったと確信しています。
今日、彼らが味わったであろう「まだ到達できない」という悔しさや壁の高さは、間違いなく今後の練習の質を変え、成長への強力な原動力になります。
「知っている」から「できる」へ。
そして「できる」から「結果を出せる」へ。
その長く険しい道のりを共に歩み、未来の素晴らしいカイロプラクターたちを育てるために、これからも妥協のない、生きた指導を続けていきたいと思います。

この記事を書いた人:榊原 直樹
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)
1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。