肩の痛みの「本当の原因」をあなたは知っていますか? ── 最新エビデンスが変える、肩関節治療の新常識 ──

本日、徒手療法大学名古屋校で「肩関節周辺軟部組織の筋膜リリース」をテーマにした実技クラスを行いました。今回のコラムでは、その授業の内容を通じて、肩の痛みの奥深さ、そしてカイロプラクティックという学問が持つ可能性について、お伝えしたいと思います。

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この記事の要旨 / Article Summary
  • 肩の痛みの代表疾患であるインピンジメント症候群(肩峰下型・インターナル型)と五十肩(癒着性関節包炎)の病態を、最新のエビデンスとともに解説する。
  • 五十肩の発症には閉経後のエストロゲン低下・自律神経の乱れ・神経免疫反応など複合的な全身性メカニズムが関与しており、「原因不明」とされてきた従来の理解を大きく超えつつある。
  • 肩周辺の解剖構造は複雑であり、触診精度の差が治療結果に直結する。細心の注意と集中力を持った触診が、臨床の根幹となる。
  • 肩の痛みは局所だけの問題ではなく、胸椎・頸椎・肩甲骨を含む全身の運動連鎖(Kinetic Chain)の視点が不可欠であり、マルチモーダルなアプローチが最も効果的である。
  • カイロプラクティックは単なる「骨を鳴らす技術」ではなく、解剖学・生体力学・神経科学を統合した体系的な臨床科学であり、本学はその最前線の教育を提供している。

肩の痛みが「なかなか治らない」理由

肩の痛みを訴える患者さんに最も多く見られるのが、インピンジメント症候群五十肩(癒着性関節包炎)です。

インピンジメント症候群にはいくつかの種類がありますが、臨床でとくに好発するのが肩峰下インピンジメント症候群インターナルインピンジメント症候群の2種類です。前者は肩甲骨の関節窩と上腕骨頭の大結節が肩峰下スペースで衝突することで生じる病態であり、後者は同じ2つの構造が今度は肩関節の後上部で衝突することで発症します。投球動作やオーバーヘッド動作を繰り返すアスリートに多く見られるのが特徴です。

五十肩はその名の通り中高年に多い疾患ですが、その発生メカニズムは単純な老化現象に留まりません。五十肩とは肩関節包——とくに前部から下部にかけての関節包——が拘縮・線維化した状態を指します。授業では最新のエビデンスをもとにその病態を解説しましたが、近年の研究では閉経後のエストロゲン低下による全身性の慢性炎症自律神経の乱れによる神経免疫反応、さらにはGABAシステムの異常に至るまで、複合的な要因が絡み合っていることが明らかになっています。

「原因不明」と片付けられてきた時代は、終わりつつあります。正しく病態を理解すれば、的確なアプローチが見えてくる——それがカイロプラクティックの出発点です。

触診の精度が治療結果を決める

今回の実技クラスでは、インピンジメント症候群や五十肩に関連する主要な軟部組織——回旋筋腱板(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋)、上腕二頭筋長頭腱、関節包、腱板疎部——への触診法から、実際の筋膜リリース手技まで、包括的に学びました。

肩周辺の解剖構造は、全身の中でも特に複雑です。触れる角度がほんの数ミリ違うだけで、まったく異なる組織に触れることになる。その精度の差が、治療結果に雲泥の差を生みます。

私が学生たちに口を酸っぱくして伝えているのは、「細心の注意を払い、集中力を持って丁寧に触診すること」。この日も、皆が真剣にテクニックを磨く姿を見て、指導者として心から微笑ましく感じました。学ぶことへの熱量が、必ず臨床の力に変わっていくと確信しています。

「局所だけ」を見ていては不十分な理由

現代のカイロプラクティックが重視するのは、局所の治療だけではありません。たとえば、肩の痛みの背後に胸椎の可動性低下があれば、肩甲骨のアライメントが崩れ、回旋腱板全体に過剰な負荷がかかります。授業で繰り返し強調したのは、こうした「運動連鎖(Kinetic Chain)」の視点です。

上腕二頭筋長頭腱(LHBT)を例にとれば、その病態は単なる腱の炎症ではなく、周囲の烏口上腕靭帯・肩甲下筋との癒着、さらには頸胸椎の機能障害が引き起こす肩甲骨のマルアライメントまで、立体的に把握する必要があります。最新の臨床研究でも、局所のリリースだけでなく、頸胸椎へのマニピュレーションや肩甲胸郭関節の動的コントロール改善を組み合わせたマルチモーダルなアプローチが最も効果的であることが示されています。

小胸筋一つをとっても、その短縮は肩甲骨を前傾位に固定し、回旋腱板全体のベクトルを狂わせます。局所を丁寧に診ながら、同時に全身のバイオメカニクスを俯瞰する——この両眼的な思考こそが、徒手療法家に求められる力です。

肩の痛みは「肩だけの問題」ではありません。胸椎・頸椎・肩甲骨・そして全身の運動連鎖が、一枚の絵のように繋がっている。それを読み解く眼を養うことが、本学の教育の核心です。

カイロプラクティックを学ぶとはどういうことか

「カイロプラクティックって、腰を『バキッ』とするだけじゃないの?」

そんなイメージを持っている方は、ぜひ今日のコラムを読み返してください。私たちが学んでいるのは、最新の解剖学・生体力学・神経科学を基盤とした、体系的な臨床科学です。

徒手療法大学では、医学論文を読み解く力、解剖学的に正確な触診技術、そしてバイオメカニクスに基づいた介入計画を、実技と講義の両輪で身につけます。今回の授業のように、最新の国際誌(Frontiers in Physiology、JSES、Cureus など)に掲載された研究を随時取り入れながら、常にアップデートされた知識を提供することを大切にしています。

「人の痛みを科学的に解決したい」——その志を持つ方を、私たちは待っています。

おわりに

肩の痛みという、一見シンプルに見えるテーマの中に、これほど豊かな科学が詰まっています。その複雑さと向き合い、丁寧に解き明かしていくプロセスこそが、徒手療法の醍醐味だと私は思います。

名古屋校の学生たちの真剣な眼差しを見るたびに、次世代の臨床家たちがここから育っていくことへの、大きな期待と誇りを感じます。

榊原直樹

この記事を書いた人:榊原 直樹

徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)

1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。

名古屋・神戸・札幌のカイロプラクティックスクール|徒手療法大学ではカイロプラクティックを学びたいという将来のカイロプラクターを募集中です。

榊原直樹学長が患者の肩や首の周辺を丁寧に触診している様子。「学長コラム 肩の痛みの本当の原因を、あなたは知っていますか?」というタイトル文字と、肩関節(インピンジメント症候群)の解剖図が映るモニターが配置されたアイキャッチ画像。
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