海外研修が大学生の人生を変える ――タイの医学生たちと過ごした5日間が教えてくれたこと

2026年5月、本学と教育提携関係にあるタイ東北部の国立大学の医学部生たちが海外研修として来日した。医学部生11名、教員2名の合計13名が5日間の研修プログラムを共に過ごした。外科手術の見学、終末期医療センターの訪問、三重大学医学部附属病院、愛知県がんセンターでのダビンチ手術支援ロボットの見学、そして飛騨高山・白川郷への文化体験。充実した日程であったが、今振り返ってみると、私にとってこの5日間は単なる研修の企画・運営にとどまらない、深い気づきをもたらしてくれるものであった。

この海外研修プログラムのきっかけは、提携大学解剖学のラタナ先生からの一本の連絡だった。ラタナ先生は学生たちに「経験すること」の重要性を強く信じている方だ。新しい環境に触れること、国の外に出て、見知らぬ世界の中に身を置くこと——そうした経験を通じてしか得られないものがある、という信念をお持ちだ。今回の来日も、その信念から生まれた企画だった。

私はその言葉に深く共感した。なぜなら、私自身もかつてその経験をしたからだ。

大学を卒業してすぐ、私はアメリカへ渡った。慣れない土地、異なる言語、異なる文化の中で、私は日本にいるだけでは決して得られなかった経験を積み重ねた。戸惑い、失敗し、それでも前に進んだ。あの日々の経験は、30年近くが経った今もなお、私の思考と行動に影響を与え続けている。経験とは、時間が経っても色褪せない。それどころか、歳を重ねるほどに、その意味が深まっていく。

人生は経験の積み上げである。

この言葉を私は本気でそう思っている。人は経験によって形成される。知識は本から学べる。しかし、経験だけは自らの体と心で積むしかない。そしてここで一つ、厳しいことを言わなければならない。経験をしないということは、生きていないことと同じだ、と。

日本人は新しい環境に飛び込むことへの恐怖心が強い。内向き志向と言われて久しい。海外留学者数は年々減少し、「草食化」「内向き」という言葉が若者を語る際のキーワードになって久しい。もちろん、日本という国の中にも豊かな経験はある。しかし、日本という環境を一度飛び出し、全く異なる世界に身を置く海外研修や留学でしか味わえない経験というものが、確かに存在する。言葉が通じない不安、文化の違いに戸惑う感覚、それでも人と人としてつながれる喜び——そうした経験は、人間を根っこから変える力を持っている。

今回来日したタイの医学部生たちは、日本という初めての環境の中で、何を感じただろうか。愛知県がんセンターでダビンチ手術支援ロボットを目の当たりにしたとき。白川郷の合掌造りの集落を歩いたとき。終末期の患者に寄り添う日本の医療現場を見たとき。彼らの目に映ったもの、胸に刻まれたもの——それは教室の中では決して手に入らないものだ。これが海外研修の本質である。

本学の学生たちにも伝えたい。経験を恐れるな。新しい環境を恐れるな。知らない世界に飛び込む勇気こそが、あなたという人間をつくる。人生において、「あのとき、あの場所に行っていなければ」と思える経験を、どれだけ積めるか。それが人生の豊かさそのものだと、私は信じている。

今回の5日間は、タイの学生たちだけでなく、私自身にとっても大切な経験となった。

榊原直樹

この記事を書いた人:榊原 直樹

徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)

1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。

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海外研修は大学生にとってなぜ重要なのか。タイの医学部生13名との5日間の研修を通じて、「経験することの意味」と「人生は経験の積み上げである」という真実を改めて実感した。学長コラム。
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