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大学の学食と、300円のカオマンガイ
連れて行ってもらうのは、大学内の学食です。複数のお店が集まったフードコートのような場所で、好きなお店を選んで注文するスタイル。値段は200円から300円程度とリーズナブルで、学生も教員も地元の人たちも一緒に朝ごはんを食べています。
私が毎朝注文するのは、カオマンガイです。鶏の出汁で炊いたご飯の上に蒸し鶏をのせた、とてもシンプルな料理。スープ付きで300円。胃に優しく、朝にちょうど良い。タイ滞在中、これが私の定番の朝ごはんになりました。
解剖学を知らなければ、メスは入れられない
9時、解剖室へ。昨日のスキニングを終えた献体の前に立ち、いよいよ本格的な筋肉・神経・関節の解剖へと入っていきます。
解剖実習で欠かせないのは、解剖学の知識です。これは当たり前のようで、実はとても重要なことです。筋肉と神経を分離していく作業は、その構造を頭に入れていなければ不可能です。知識なしにメスを入れれば、重要な神経や血管を切断してしまいかねない。だからこそ、少しでも不安があれば、必ず教授に確認しながら進めます。
9時から午後4時半まで。集中して取り組めばあっという間に時間が経ちます。学生たちの気迫は昨日以上でした。1秒たりとも無駄にできないという緊張感が、解剖室全体に漂っていました。
そして今年、私が特に嬉しかったのは、学生たちが教授に英語で積極的に話しかけていたことです。昨年は私が通訳する場面がほとんどでしたが、今年は私の出番が激減しました。専門用語を交えながら、自分の疑問を自分の言葉で解消していく。その姿を見ながら、静かに、しかし確かな誇らしさを感じていました。

前日夜、部屋に全員が集まった
解剖実習が終了した後——この日には特別なイベントが控えていました。大学の医学部生たちが集まる「歓迎式典」です。昨年も同じ式典が開催されました。
昨年の反省がありました。何をするか決めていなかった私たちは、まじめな「日本紹介プレゼン」を行いました。内容は悪くなかった。しかし会場の空気は重く、盛り上がりに欠けた。後で仲間内で「お葬式みたいだったね」と苦笑いしたほどです。
今年は違います。前日の夜、私の部屋に全員が集まり、作戦会議を開きました。演目は決まっていました——日本の伝統芸能、二人羽織です。
タイ人は知らない。だからこそ面白い
二人羽織とは何か。一人が羽織を着て「顔役」になり、もう一人が後ろから腕だけを出して「手役」になる。前の人は腕がなく、後ろの人は目が見えない。この状態で食事をしようとするから、何もかもがうまくいかない——それがこの芸の笑いの本質です。
タイの人たちには馴染みのない芸です。だからまず説明をして、それから実演へ。用意したのは4つ。日本から持参したカップラーメン、バナナ、牛乳、そして現地のコンビニで買ったイチゴのショートケーキ。これらを二人羽織で「食べる」のです。
顔役を務めたのは高岡先生。手役は小熊くん。この配役には理由がありました。高岡先生の豊かなリアクション、そして小熊くんの機転の利いたアドリブ——この二人なら、予測不能な化学反応が起きると確信していたからです。

会場が、ひとつになった瞬間
実演が始まった瞬間、会場の空気が変わりました。
カップラーメンに手を伸ばそうとする小熊くんの「手」が、高岡先生の顔に直撃する。バナナの皮をむこうとして、なぜか耳に押し付けてしまう。ケーキを食べさせようとして、顔面に塗りたくる——。
高岡先生のリアクションは期待以上でした。小熊くんのアドリブも絶妙でした。タイ人の学生や教員の方々の笑い声が、会場に響き渡りました。
しかしここで終わりではありません。次のステップは「参加型」です。会場の学生から希望者を募り、二人羽織を体験してもらうのです。これが狙い通りの展開になりました。自分たちでやってみると、さらに笑いが増す。見ている側も巻き込まれていく。
会場全体が、ひとつになった瞬間でした。
昨年の「お葬式」から、今年は「お祭り」へ。日本の伝統芸能が、タイの医学部生たちの心をひらいた夜でした。


この記事を書いた人:榊原 直樹
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)
1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。 2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。