知識だけでは、誰も治せない
カイロプラクターとして、そして一人の治療家として進化し続けるために必要なものとは何でしょうか。 解剖学、診断学、そして人体力学……。こうした専門知識の習得が不可欠であることは言うまでもありません。しかし、現場に立つ皆さんに強く伝えたいことがあります。
それは、「知っていることと、できていることとは全く別物である」という真実です。
どんなに素晴らしい医学論文を読み込み、解剖学の知識が頭に入っていたとしても、それを患者さんの体に還元できる「治療技術」が伴っていなければ、臨床の現場では無きに等しいと言わざるを得ません。
映画『ザ・シークレット』にも出演したボブ・プロクター氏の成功法則について語られていたのは、才能ゼロから成功するための「3つの魔法」でした。この内容は、まさに私たちカイロプラクターが技術を習得するプロセスそのものだったのです。

第1の魔法:徹底的な「素直さ」と「守破離」
その映画の中で最も強調されていたことは、「師の教えを100%守る」ことの重要性です。 日本には古くから「守破離(しゅはり)」という言葉があります。まずは型を守り、その後に破り、最後に離れる。
カイロプラクティックの技術修練においても、全く同じことが言えます。 特に初期段階において最も大切なのは、「素直さ」です。
多くの学生や初心者が、少し学んだだけで「自分ならこうする」「こちらのほうがやりやすい」と、自己流のアレンジを加え始めます。はっきり言いますが、これは初期段階では絶対にやってはいけないことです。
なぜなら、まだ体が正しい動きを覚えていない段階でのアレンジは、単なる「悪い癖」の定着にしかならないからです。 ボブ・プロクター氏の言葉を借りれば、「自己流を捨て、師匠のやり方を1ミリも変えずにコピーする」こと。この愚直なまでの素直さこそが、実は最短で達人へと近づく近道なのです。
第2の魔法:潜在意識に刷り込む「反復」
では、教わった技術を自分のものにするにはどうすればよいか。 答えはシンプルです。「繰り返すこと」。これ以外に魔法はありません。
頭で理解した理論を、指先の感覚、体の重心移動として体得するには、幾度となく反復し、試行錯誤を繰り返す必要があります。
一時的にやる気を出して練習するだけでは人生は変わりません。それは治療技術も同じです。 「1回できたからもう大丈夫」ではありません。無意識レベル、つまり潜在意識が勝手に正しい動きを選択できるようになるまで、何千回、何万回と繰り返すのです。
私自身、ボディビルや毎日の筋トレを通じて痛感していますが、体は嘘をつきません。そして、技術という名の「脳と神経の回路」も、反復によってのみ強化されます。

第3の魔法:自分の可能性を信じるリミッター解除
最後に、自分自身を信じてください。 「あの先輩は才能があるから」「自分は不器用だから」と、勝手に限界を決めてはいませんか?
かつては自信がなかったボブ氏が成功したのは、「自分の中にも才能の貯水池がある」と信じ、行動を変えたからでした。 カイロプラクティックの手技は、特別な人間だけに許された神業ではありません。正しい知識を持ち、素直な心で師の教えを守り、泥臭いまでの反復練習を行えば、誰でも必ず高いレベルに到達できます。
「知識」を「技術」へ。そして「技術」を「芸術」へ。
学ぶことをやめず、そして動くことをやめないでください。 その繰り返しの先にこそ、患者さんを救う本物の手が完成するのです。

榊原 直樹(さかきばら なおき) 徒手療法大学 学長 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック(D.C.) 医学博士(スポーツ医学・岐阜大学医学部)
米国カリフォルニア州にてライセンス取得後、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。2007年に帰国し、名古屋駅前にてカイロプラクティック治療院を開院。現在は後進の育成に尽力している。 東北大学入学時より開始したボディビル・筋トレは現在も毎朝1時間のルーティンとして継続中。また、2000年にゴエンカ氏のもとで始めたヴィパッサナー瞑想をきっかけに、毎朝晩30分の瞑想も欠かさない。「知行合一」を信条とし、心身の鍛錬と臨床技術の向上を追求し続けている。