こんにちは、徒手療法大学 学長の榊原直樹です。
入学を検討している方や、学生の皆さんからよく「カイロプラクターに向いている人は、どのような人ですか?」という質問を受けます。 「手先が器用な人」「解剖学の知識が豊富な人(頭が良い人)」といった答えを想像するかもしれませんが、私の答えは少し違います。
先日、解剖学者の養老孟司先生がある動画で語っていた「頭の良さより大事なもの」という話が、まさにこの「カイロプラクターの適性」の本質を突いていました。 今回は、私のアメリカでの過酷な臨床経験も交えながら、本当にこの仕事に向いている人の資質についてお話しします。
1. カイロプラクターに向いている人は「計算高い人」ではない
養老先生は動画の中で、「IQが高い人は先が見えすぎてしまうため、計算に合わない状況になると精神的にクラッシュしやすい」と仰っていました。
これは臨床の現場でも同じことが言えます。 医学部レベルの知識を持ち、理論武装が完璧な「頭の良い」人が、必ずしも名治療家になるわけではありません。なぜなら、人間の身体や治療院経営は、教科書や計算通りにはいかないからです。
「理論上はこれで治るはずだ」という計算が通用しない壁にぶつかった時、頭だけで考える人は「割に合わない」「自分の理論は正しいのに」と悩み、最悪の場合、臨床から離れてしまいます。 逆に、カイロプラクターに向いている人とは、計算通りにいかない現実を前にしても、逃げずに踏ん張れる「愚直さ」を持った人なのです。
2. 私の米国修行時代:向いているかどうかは「行動」で決まる
養老先生は「状況が悪くても、ただ職場に行き続けた愚直な人が結局は残った」とも語られています。これを聞いて、私がアメリカ・ロサンゼルス近郊のアーバインで働いていた当時のことを思い出しました。
当時、私が働いたクリニックは「完全歩合制」。基本給ゼロで、自分で患者さんを連れてこなければ収入はありません。しかも異国の地で、私にはコネもツテも全くありませんでした。 頭で損得を計算する人なら、「こんな条件は無理だ」「効率が悪すぎる」とすぐに辞めていたでしょう。
しかし、私はあきらめませんでした。 日系のスーパーマーケットなどに自ら出向き、通りがかる人々に「フリースパイナルスクリーニング(無料の背骨チェック)」を行い続けました。来る日も来る日も、愚直に宣伝活動を続け、一人ひとりの背骨に触れ続けたのです。
そのお陰で、1年後には生活できるレベルまで患者さんを増やすことができました。 この「泥臭い下積み」を乗り越えた経験が、今の私の「患者さんが来ないわけがない」という絶対的な自信に繋がっています。カイロプラクターに向いている人とは、才能がある人ではなく、このように泥臭く行動を続けられる人なのです。

3. 「掃除」と「アジャストメント」に見る身体性
動画の中で養老先生は「掃除は身体の訓練である」と仰っています。 掃除を単なる作業とせず、箒(ほうき)の微妙な使い分けなどを通じて身体の使い方を学ぶ。これは、我々のアジャストメント(矯正)技術の習得と全く同じです。
頭で「この角度で矯正すればいい」と分かっていても、実際に身体が動かなければ意味がありません。不器用でも身体を動かし、失敗しながら手に感覚を覚え込ませる。 そうした「身体を通した地道な学習」を厭わない人こそが、プロとして大成するのです。
4. まとめ:バリアオンリーの道を行けるか
現代は「効率」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視されがちです。しかし、人間の身体を扱う我々の仕事において、近道はありません。
もしあなたが「自分はカイロプラクターに向いているだろうか」と迷っているなら、自分のIQや器用さを気にする必要はありません。 問われるのは、思い通りにいかない身体という自然を相手に、愚直に向き合い続けられるかどうかです。
計算高く生きるよりも、愚直に身体を動かし続ける。 その先にこそ、AIにも代替できない、患者さんの痛みに真に寄り添える「本物の手」が完成すると私は信じています。

まとめ:カイロプラクターに向いている人は「不器用でも続けられる人」
最後に、改めてカイロプラクターに向いている人について定義します。
それは、決して「最初から器用にこなせる人」や「偏差値の高い人」ではありません。 養老孟司先生が説く『脳の丈夫さ』と、私が米国で学んだ『行動する愚直さ』。この2つを持ち合わせ、効率よりも目の前の患者さんのために汗をかける人こそが、最強の治療家になれるのです。
近道を求めず、遠回りに思える「身体の修練」を信じて継続してください。 「自分には才能がないかもしれない」と悩む必要はありません。愚直に続けられるという才能さえあれば、あなたは間違いなくこの仕事に向いています。
徒手療法大学で、その「愚直な手」を一緒に育てていきましょう。あなたの挑戦を待っています。
この記事を書いた人

榊原 直樹(Naoki Sakakibara), D.C., Ph.D.
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック / 医学博士(スポーツ医学)
1998年に米国カリフォルニア州にてライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の博士号を取得。現在は名古屋駅前で治療院を運営(臨床歴28年)しながら、後進の育成に尽力している。 18歳から続く毎朝の筋トレと、25年以上欠かさないヴィパッサナー瞑想が日課。「身体と心の修練」を自ら実践し続けている。
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