カイロプラクティックの治療現場において、私は直感を非常に重視しています。 教科書通りの典型的な症状であれば、論理的な思考(ロジカルシンキング)だけで解決できます。しかし、人間の体は複雑であり、既存のパターンにはまらない例外的なケースも数多く存在します。
そうした難治なケースを救うのは、往々にして「一瞬のひらめき(直感)」です。 では、この「カイロプラクティックにおける直感の鍛え方」はあるのでしょうか? 今回は、私の臨床経験と、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士の理論を交えながら、治療家が目指すべき直感の磨き方についてお話しします。
直感は「あてずっぽう」ではない
まず誤解してはいけないのが、プロの治療家が感じる直感は、決して「あてずっぽう」ではないということです。
カーネマン博士は著書『ファスト&スロー』で、人間の思考を2つのモードに分類しました。
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システム1(直感):速くて自動的、無意識の反応。
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システム2(論理):遅くて意識的、エネルギーを使う計算や分析。
臨床における直感とは、潜在意識下で何らかの論理的思考が超高速で働き、意識に上る前に答えを弾き出している状態——つまり、システム1(直感)が高度に熟練した状態なのです。 私自身、この直感を働かせることで、論理だけでは辿り着けなかった原因を特定し、劇的な改善に至ったケースを数多く経験しています。

カイロプラクティックにおける直感の鍛え方は「論理の反復」
それでは、どうすればこの精度の高い直感を手に入れられるのでしょうか? その鍛え方は逆説的ですが、論理的思考(システム2)を徹底的に反復することに尽きます。
カイロプラクターにとっての論理的思考のベースとは、解剖学、運動学、生理学、病理学といった基礎医学の知識です。 「なぜ痛むのか?」「どの組織が原因か?」を、基礎医学をもとに泥臭く論理的に突き詰める。この思考プロセスを何千、何万回と繰り返すことで、脳はそのパターンを学習し、やがて瞬時に答えを導き出す「直感」へと昇華させていくのです。 つまり、基礎をおろそかにしたまま直感を鍛えることは不可能なのです。
直感を鈍らせないために知識をアップデートする
直感の鍛え方においてもう一つ重要なのが、直感の材料となる知識の質です。 科学の世界では、数年前に正しいとされていた常識が、数年後には真逆になっていることも珍しくありません。もし、あなたの頭の中にあるデータベースが古い情報のままであれば、そこから導き出される直感もまた、的外れなものになってしまいます。
だからこそ、私は常に最新の医学論文(英語文献含む)に目を通し、知識をアップデートし続けています。良質な情報の取捨選択なくして、良質な直感は生まれません。
思考バイアスを修正する「内観」の重要性
しかし、どれだけ知識があっても人間には思考バイアス(思い込み)という罠があります。「この症状ならこうに違いない」という先入観が、正しい直感を曇らせてしまうのです。
このバイアスを修正し、直感を正しく機能させるために最も有効なのが、内観(瞑想)です。 カーネマン博士も、直感の精度を上げるために内省・内観の重要性を説いています。
内観とは、自分の心に湧き上がる感情や体の感覚を、ただ客観的に観察することです。 私は2000年から毎日の日課として瞑想を続けていますが、これは治療とは無関係に見えて、実は臨床能力に直結しています。なぜなら、自分自身の心の揺れや感覚を客観視できない人間が、他者(患者さん)の体を客観的に観察することなど到底不可能だからです。

結論:論理と内観の両輪を回す
私たち徒手療法大学が伝えたい「プロフェッショナルの条件」は以下の通りです。
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最新の基礎医学に基づき、論理的思考を反復して直感を鍛える
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内観によって自分を客観視し、思考バイアスを修正し続ける
カイロプラクティックにおける直感の鍛え方に近道はありません。論理と感性、その両輪を回し続けることこそが、教科書には載っていない難症例をも見抜く本物の技術につながるのです。
本記事のまとめ
直感の正体 直感とは「あてずっぽう」ではなく、脳内で論理的思考が高速処理された結果(システム1)です。特に難治性のケースにおいて、原因特定のための重要な武器となります。
カイロプラクティックにおける直感の鍛え方 直感を鍛える唯一の方法は、解剖学や生理学などの「基礎医学に基づく論理的思考」を徹底的に反復することです。基礎という土台があって初めて、正確な直感が生まれます。
情報の鮮度が直感の質を決める 古い知識のままでは直感も的外れになります。常に最新の科学的知見(医学論文など)を取り入れ、知識をアップデートし続ける姿勢が不可欠です。
内観でバイアスを排除する 「思い込み」を防ぐためには、日頃から内観(瞑想)を行い、自分自身の思考や感情を客観視する訓練が有効です。自分を客観視できて初めて、患者さんを客観的に診ることができます。
次回の記事や講義で、これらの具体的なトレーニング方法についてさらに深掘りしていきましょう。
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この記事を書いた人

榊原 直樹(Naoki Sakakibara, D.C., Ph.D.) 徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック
1998年、米国カリフォルニア州にてD.C.ライセンスを取得。ロサンゼルスでの10年の活動を経て、岐阜大学医学部にて医学博士号(スポーツ医学)を取得。日米通算28年以上の臨床経験を持つ。 「論理的思考」の重要性を説く一方で、2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践。毎朝晩の瞑想と筋力トレーニングを欠かさず行い、科学的根拠(EBM)と身体感覚(直感)を融合させた独自の治療哲学で後進の育成にあたる。