「足首の捻挫をした後、外側の痛みがなかなか引かない」とお悩みの方や、根本改善を目指す治療家・学生に向けた専門コラムです。足首の捻挫が長引く背景には、靭帯の損傷だけでなく、足のアーチを支える「立方骨」の微小なズレ(立方骨症候群)が隠れていることが少なくありません。本記事では、見落とされがちな踵立方関節のバイオメカニクス(生体力学)と、痛みの原因となる関節のズレがなぜ起こるのかを、解剖学的な視点から分かりやすく紐解きます。
こんにちは。徒手療法大学 学長の榊原です。
日々の臨床や、学校で未来のカイロプラクターたちを指導している中で、非常に多く目にする症状の一つに「足関節の捻挫」があります。
「捻挫をした後、腫れは引いたのに足の外側の痛みがなかなか取れない」 「踏み込むと違和感がある」
といった訴えです。実はこのような場合、靭帯の損傷だけでなく、足の小さな骨である「立方骨(りっぽうこつ)」のアライメント異常が隠れていることが少なくありません。
今回は、少し専門的になりますが、スポーツ障害や足のトラブルを紐解く上で欠かせない「立方骨」のバイオメカニクス(生体力学)について解説します。
立方骨とは何か?歩行を支える鍵
立方骨は、足の外側に位置するピラミッド型の骨です 。後ろ側で踵(かかと)の骨である踵骨(しょうこつ)と関節を形成し、これを「踵立方関節(しょうりっぽうかんせつ)」と呼びます 。

この関節は、私たちが歩く・走るという動作において、非常に精巧なスイッチの役割を果たしています。
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踵接地(ヒールコンタクト): 踵が地面につく瞬間、関節のロッキングが解除され「緩みの位置」となり、衝撃を吸収するクッションとして働きます 。
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足趾離地(トーオフ): つま先で地面を蹴り出す瞬間、立方骨が回内することで関節面がカチッと噛み合い、「締りの位置(ロッキング)」となります 。
このロッキング機構によって足全体が強固なテコとなり、力強く地面を蹴ることができるのです 。扁平足などで過剰な回内や下制が起こりこのメカニズムが破綻すると、膝関節への内反負荷や、仙腸関節、さらには腰椎にまで負の連鎖(運動連鎖)が波及し、痛みの原因となることもあります 。

足首の捻挫の後に潜む「立方骨症候群」
足首を内側に捻る「内反捻挫」を起こした際、足の外側にある靭帯を痛めることはよく知られています。しかし、臨床上注意すべきは、足関節内反捻挫の最大40%のケースにおいて「立方骨症候群」が併発していると言われている点です 。
立方骨症候群とは、踵立方関節におけるサブラクセーション(関節の微小なズレ・機能異常)を指します 。
捻挫の瞬間、足の外側から裏を通る「長腓骨筋腱」が強く引き伸ばされます 。この長腓骨筋腱は立方骨を滑車のように経由しているため、強い牽引力がかかると立方骨が内下方(回内方向)へ引き込まれ、回内位にサブラクセーションが生じてしまうのです 。

治療家を目指す学生たちへ:木を見て森を見ずにならないために
私が徒手療法大学の授業で学生たちに常々伝えているのは、「痛い場所だけを見るのではなく、足部全体のバイオメカニクスを評価しなさい」ということです。
足の外側に痛みが残っている、あるいは足首の可動域制限が続いている患者さんを診たときは、必ず踵立方関節の遊びを確認する必要があります。当校の授業でも徹底して指導していますが、立方骨を他動的に動かす「内転検査」や「回外検査」を用いることで、このフィクセーション(関節の引っ掛かり)を的確に見つけ出すことができます 。
適切な徒手療法によって立方骨のサブラクセーションを取り除き、関節の正常な滑りを取り戻すことで、長引いていた痛みが劇的に改善するケースを私は臨床で何度も経験してきました。
足部のわずかなアライメントの乱れが、全身のパフォーマンス低下や痛みに繋がります。足元の土台を整えることの重要性を、これからも多くの患者さんや学生に伝えていきたいと思います。

この記事を書いた人:榊原 直樹
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)
1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。