記事要約
SNSが普及し、膨大な情報や他人の評価に翻弄されやすい現代。多くのカイロプラクターが外側に正解を求め、流行りのテクニックを追いかけるセミナージプシーとなり、自分を見失っています。 本コラムでは、徒手療法大学学長の榊原が、臨床現場で真に求められる冷静な客観視と、それを可能にする自律したマインドセットについて解説します。周囲の雑音に流されず、自分の内側に確固たる基準を持つことの重要性。そして、迷いを自信に変え、治療の結果につなげるための唯一の道である自己観察について説く、すべての迷える治療家へのメッセージです。
情報の海で溺れる治療家たち
現代は、スマートフォンひとつあれば、世界中のあらゆる情報にアクセスできる時代です。 一昔前なら知る由もなかった「他の治療院の繁盛ぶり」や「海外の最新テクニック」、「同業者の華やかな成功談」が、SNSを開けば嫌でも目に飛び込んできます。
社会学者のデイヴィッド・リースマンは、名著『孤独な群衆』の中で、現代人の多くが他人の反応や流行を常に気にする「他人指向型」であると指摘しました。まるで高性能なレーダーのように周囲を察知する一方で、自分の内側にあるべき指針を持たない人々のことです。
これは今のカイロプラクティック業界にも、そのまま当てはまるのではないでしょうか。 今、多くの治療家に欠けているのは、情報や技術ではなく、プロとしての確固たる「マインドセット(思考様式)」なのです。

セミナージプシーの正体
多くの治療家が、ネット上の情報に翻弄され、自分を見失っています。 「あのテクニックが流行っている」「今の自分のやり方では遅れているのではないか」という不安から、外側に正解を求め始める。すると、どうなるか。
次から次へと流行りのテクニックセミナーを渡り歩く、いわゆるセミナージプシーの誕生です。
彼らが求めているのは技術の向上ではありません。「これさえ学べば安心だ」という、外部からの承認と安らぎです。しかし、どれだけ外に正解を探しても、きりがありません。なぜなら、臨床の正解は外側には落ちていないからです。
カイロプラクターに不可欠な「自律したマインドセット」
カイロプラクティックの臨床において最も重要なのは、目の前の患者さんの状態を客観視し、冷静に分析することです。
もし、あなたの基準が「外側(他人の目や流行)」にあったらどうなるでしょうか? 「ゴッドハンドと思われたい」「治せなかったら悪い口コミを書かれるかもしれない」といった雑念や、過度な同情心など、余分な感情(雑念)が入り込んでしまいます。
余分な感情というノイズが混じった状態で、正確な客観的判断など不可能です。
周囲の雑音や自分の感情に流されず、プロとして冷静に最善の選択をする。 これこそが、リースマンの言う「自律性(Autonomy)」であり、これからのカイロプラクターが備えるべきマインドセットです。

自分を知るということ
では、どうすればこの自律性を養うことができるのでしょうか。 答えはシンプルです。基準を外側ではなく内側に持つことです。
しかし、これは一朝一夕にできることではありません。 自分自身の思考の癖、湧き上がる感情、弱さや限界。それらを深く理解するために、長期間にわたる自己観察を続ける必要があります。
自分を知り尽くした人間だけが、臨床の場で自分の感情をコントロールし、鏡のように澄んだ心で患者さんを診ることができます。
内なる基準が結果を生む
自分の中に確固たる基準を持っていれば、判断にぶれは生じません。 「流行っているから」ではなく、「この患者さんの神経生理学的なメカニズムに必要だから」という確信を持ってアジャストメントを行うことができます。
判断にぶれがないと、それは自信となって指先に伝わります。 そして当然、その迷いのなさは、治療の結果へと直結するのです。
情報の波にのまれそうな今だからこそ、スマートフォンを置き、自分自身の内側を見つめる時間を持ってください。 テクニックのコレクションではなく、あなた自身の在り方を磨くこと。それが、本物のカイロプラクターへの唯一の道です。
【徒手療法大学 公式メディア】
-
公式サイト: https://manualtherapy.jp/
-
X (Twitter): https://x.com/Manual_Therapy_
この記事を書いた人

徒手療法大学 学長 榊原 直樹 (Naoki Sakakibara, D.C., Ph.D.)
米国カリフォルニア州公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。 1998年に米国でライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。2007年に帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号(Ph.D.)を取得。日米通算28年の臨床経験を持つ現役カイロプラクターであり、名古屋駅前の治療院にて現在も患者と向き合い続けている。
現在は名古屋・神戸・札幌に拠点を置く「徒手療法大学」の学長として、後進の育成に尽力。 2000年よりヴィパッサナー瞑想を日課とし、毎朝の筋トレと共に「心身の自己観察」を欠かさない。「技術だけでなく、プロとしての在り方を磨く」を信条に、自律した臨床家の輩出を目指している。