記事要旨
カイロプラクティックは「結果が目の前ですぐにわかる」という、大きな喜びと同時にシビアな一面を持つ仕事です。このプレッシャーを乗り越え、プロとして「揺るぎない自信」を築くために必要なこととは何でしょうか。本コラムでは、徒手療法大学学長・榊原直樹が、知識・技術の研鑽にとどまらない「カイロプラクターの責任」の本質を解き明かします。WHO(世界保健機関)の定義を紐解きながら、施術者自身が「健康的生活の実践者」として在ることの重要性を説く、すべての治療家へのメッセージです。
カイロプラクティックという仕事には、他の職業ではなかなか味わえない大きな特徴があります。それは、「結果が目の前ですぐにわかる」という点です。
大企業や巨大な組織の歯車として働いている場合、自分の仕事が最終的にどう役立っているのか、その具体的な実感を得ることは難しいかもしれません。しかし、私たちは違います。患者さんの変化、痛みの軽減、可動域の改善――それらすべてが、その場で、ダイレクトに自分へと返ってきます。
これは、プロとして進化し続けるための強烈な原動力になります。しかし、別の視点から見れば、これほど「シビアな世界」もありません。そこで問われるのが、私たち「カイロプラクターの責任」です。

「揺るぎない自信」の正体
これからカイロプラクターを目指す学生や、なりたての人にとっては、この即時性はプレッシャーとして重くのしかかることの方が多いでしょう。「結果が出なかったらどうしよう」という不安は、誰もが通る道です。
しかし、研鑽を積み、ある一定のレベルまで到達したとき、景色は変わります。治療に対する「ゆるぎない自信」を持つことができるようになるのです。
ここで言う自信とは、決して「どんな病気も魔法のように治せる」という過信ではありません。どのような結果になろうとも、「自分は専門家として為すべき最善を尽くした」と言い切れる、カイロプラクターとしての土台が揺らがない状態を指します。
その境地に達するために必要なこと。それが、「準備」という名の責任です。
カイロプラクターの責任としての準備
カイロプラクターの責任とは、治療中の瞬間に100%集中することは当然のこととして、治療前の準備にこそ宿ります。
医学的知識は日々更新されています。常に最新の情報をアップデートし、知識を深めること。そして、指先の感覚やアジャストメントの技術を日々研鑽すること。これらはプロとして欠かせない準備です。
そしてもう一つ、忘れてはならない重要な準備があります。それは、「施術者自らの心身をベストな状態にしておくこと」です。
1948年のWHO(世界保健機関)憲章では、健康について以下のように定義されています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. (健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)
この定義の最大の特徴は、健康を単に「病気がない(マイナスではない)」状態ではなく、「肉体的・精神的・社会的に良好な状態(ウェルビーイング)」という、より積極的な概念として捉えている点です。

「健康的生活の実践者」として
なぜ、私たちがこの定義を深く噛み締める必要があるのでしょうか。それは、患者さんが「不健康なカイロプラクター」に自分の大切な体を預けたいとは思わないからです。
私たちカイロプラクターは「健康的生活の実践者」です。
他者の健康に寄与することが、私たちカイロプラクターの使命とも言えます。健康のプロフェッショナルとして患者さんを導く立場にある以上、まずは私たち自身がその使命を体現する、患者さんのお手本になるべき存在でなければなりません。
肉体的に強健であり、精神的に穏やかで安定し、そして社会的な役割を果たして充実していること。このWHOが定義する「ウェルビーイング」な状態を自ら実践してこそ、患者さんと真に向き合い、良質なエネルギーを交換することができるのです。
知識と技術の研鑽、そして「実践者」としての自らの心身のマネジメント。 これらすべてが高い次元で調和したとき、私たちは目の前の「結果」を恐れることなく、カイロプラクターの責任を全うし、自信を持って患者さんの前に立つことができるはずです。

榊原 直樹(さかきばら なおき) 徒手療法大学(College of Manual Therapy)学長 米国政府公認ドクター・オブ・カイロプラクティック(D.C.)/医学博士
東北大学入学と同時にボディビルを始め、現在も毎朝1時間の筋トレを継続する「生涯現役」の実践者。1998年に米国カリフォルニア州でD.C.ライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間の臨床経験を積む。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。 現在は名古屋駅前での臨床に加え、名古屋・神戸・札幌に拠点を置く徒手療法大学の学長として後進の育成に尽力している。2000年からヴィパッサナー瞑想を実践するなど、WHOが提唱する「身体的・精神的・社会的健康」の体現を自らの課している。
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