日本のカイロプラクティックの法的位置づけとその曖昧さ
日本では、あん摩マッサージ指圧や柔道整復師といった医業類似行為が法律で定められた国家資格であるのに対し、カイロプラクティックには法的な資格制度がありません。このため、極論を言えば専門的な知識や技術がなくても「カイロプラクター」と名乗って開業することが可能であり、施術者のレベルに大きなばらつきが生じています。
この状況は、国民生活センターが警告する健康被害のリスクに直結しています。不適切な施術による事故情報は、2009年から2017年までの間に1,483件も寄せられており、うち240件は神経・脊髄損傷といった重症事例でした。
この問題の根底にあるのは、施術者と利用者との間に存在する**「情報の非対称性」**です。法的な資格が存在しないため、私たちは自身の責任で施術者の質を見極めなければなりません。

国際標準との大きな隔たり
国際的に見ると、カイロプラクティックの地位は日本とは全く異なります。
- 世界保健機関(WHO):カイロプラクティックをヘルスケア専門職として定義し、国民と患者の保護のため最低限の教育基準を定めています。非医療資格者に対しては、4,200時間以上の専門教育(うち1,000時間以上の臨床教育を含む)を推奨しています。
- 米国:D.C.(ドクター・オブ・カイロプラクティック)という国家資格を持つ者のみが施術を許されています。D.C.取得には、大学での専門教育に加え、約4年間の大学院教育が必要です。これは日本の医学部と同等の高い専門性が求められます。
- オーストラリア:大学で5年間の学士課程を修了することが義務付けられています。
この国際的な教育基準と比較すると、日本の教育水準は大きく下回っているのが現状です。
教育水準のばらつきがもたらす課題と展望
国家資格の不在は、施術者の知識や技術レベルに大きな差をもたらし、これが不適切な施術による健康被害のリスクに直結します。 消費者庁が収集した情報によると、カイロプラクティックによる事故情報が多数報告されており、その中には重症事例も含まれています。
これらの事故は、施術者が適切な解剖学的知識や医療的な理解を欠いたまま施術を行った結果、生じる可能性が高いのです。
このような状況に対し、国民生活センターや消費者庁は、施術を受ける前に施術者の背景(教育機関、資格、経験)をしっかり確認することや、持病がある場合は事前に医師に相談することを強く推奨しています。

結論と提言
日本のカイロプラクティックは、施術者側の努力と、利用者自身の賢明な判断が不可欠であるということです。
利用者への提言
安全な施術を求める利用者は、自らが主体的に情報を収集し、施術者の質を見極める必要があります。施術院を選ぶ際には、施術者がどのような教育機関を卒業したか、国際基準に準拠したD.C.学位を保有しているかを積極的に確認することをお勧めします。
業界への提言
日本のカイロプラクティック業界が国際的な専門職としての地位を確立するためには、法制化に向けた国との連携強化、そして国際基準に準拠した教育機関の再構築が不可欠です。
徒手療法大学は、この複雑な状況を打破するため、高い倫理観と専門知識を持つカイロプラクターを育成し、日本のカイロプラクティック教育に貢献してまいります。
記事のまとめ
法整備の遅れ: 日本にはカイロプラクティックの国家資格がなく、誰でも開業できるため、施術者のレベルに大きな差があります。
健康被害のリスク: 十分な医学的知識を持たない施術による事故が報告されており、注意が必要です。
国際基準との乖離: WHOや米国では高度な教育が義務付けられていますが、日本はその水準に達していないケースが大半です。
身を守るために: 施術を受ける際は、必ず施術者の経歴(D.C.号の有無や出身校)を確認し、信頼できる専門家を選ぶことが重要です。
【徒手療法大学 公式メディア】
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この記事の監修・執筆: 榊原 直樹(Naoki Sakakibara, D.C., Ph.D.)

徒手療法大学 学長 / 米国政府公認ドクター・オブ・カイロプラクティック
米国カリフォルニア州にてドクター・オブ・カイロプラクティック(D.C.)のライセンスを取得し、ロサンゼルスにて10年間臨床に従事。2007年に帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前にて臨床を続ける傍ら、徒手療法大学の学長として、解剖学や画像診断学に基づいた国際基準のカイロプラクター育成に尽力している。