【記事要旨】
- 画像診断の真実: MRIに写るヘルニアは「構造的」な事実ですが、それが必ずしも現在の痛みの原因(犯人)とは限りません。
- 機能的な視点: カイロプラクティックでは、ヘルニアを引き起こす「腰椎のサブラクセーション(機能障害)」と「椎間板への捻じれ負荷」に着目します。
- 偽の坐骨神経痛: 「仙腸関節」の不具合は、ヘルニア由来の坐骨神経痛と酷似した症状を出します。この鑑別診断こそが、不必要な手術を回避する鍵となります。
榊原 直樹 ドクター・オブ・カイロプラクティック(D.C.) 医学博士(Ph.D. in Sports Medicine) 徒手療法大学 学長
はじめに:その「坐骨神経痛」、画像だけで判断していませんか?
病院でMRIを撮り、「ここにヘルニアがありますね。これが坐骨神経痛の原因です」と診断される。多くの患者さんが経験する流れです。しかし、治療家の道を志す皆さんには、ここに潜む大きな落とし穴に気づいてほしいと思います。
画像にヘルニアが写っていることと、今ある痛みがそのヘルニアによるものであるかは、全く別の問題です。 今回は、整形外科的な画像診断の限界と、我々カイロプラクターに必須のスキルである「坐骨神経痛の鑑別(Differentiate Diagnosis)」について解説します。

1. ヘルニアは「構造」、カイロプラクティックは「機能」を診る

まず、腰椎椎間板ヘルニアの病態を整理しましょう。 ヘルニアとは、椎間板の線維輪が破損し(多くは変性による)、中身の髄核が突出した状態です。これは「構造的」な問題であり、本来は整形外科の領域です。近年では、突出したヘルニアがマクロファージによって貪食され、自然退縮(縮小・消失)するというエビデンスも多数報告されています。
しかし、なぜ線維輪は破損したのでしょうか?ここに、カイロプラクティックがアプローチすべき「機能的」な問題が隠れています。
腰椎にサブラクセーション(機能的な関節障害)が存在すると、椎間板には正常ではない「捻じれ(Torsion)」の負荷がかかり続けます。この持続的な捻じれストレスこそが、線維輪を傷つける大きな要因です。 我々がサブラクセーションを除去(アジャストメント)するのは、構造的に飛び出したヘルニアを押し戻すためではありません。椎間板にかかる異常な負荷(捻じれ)を取り除き、機能的な治癒環境を整えるためなのです。
2. 坐骨神経痛の鑑別:ヘルニアか、仙腸関節か?
臨床現場で最も重要なのが、「その下肢痛(坐骨神経痛)は本当にヘルニア由来なのか?」という鑑別診断です。
ヘルニアによる神経根圧迫は確かに坐骨神経痛を引き起こします。しかし、下肢に関連痛を飛ばす原因はそれだけではありません。 中でも非常に多いのが、仙腸関節のサブラクセーションによる関連痛です。
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ヘルニア由来(神経根症状): デルマトーム(皮膚分節)に沿った感覚異常、筋力低下、腱反射の減弱などが明確に出現しやすい。
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仙腸関節由来(関連痛): お尻から大腿後面、時にはふくらはぎにかけて、坐骨神経痛と酷似した痛みやしびれを引き起こすが、神経学的所見とは一致しないことが多い。
整形外科では、画像でヘルニアが見つかると、これら2つの事実(画像上のヘルニアと、患者の痛み)を安易に結びつけて診断しがちです。しかし、そこには科学的な因果関係の証明(根拠)が欠けていることが多々あります。 画像上のヘルニアは「痛みのない古傷」に過ぎず、真犯人は仙腸関節の機能障害だった、というケースは臨床上、枚挙にいとまがありません。

3. 画像ではなく「人」を診る診断力を
「手術は避けたい」と願う患者さんに対し、カイロプラクターができることは明確です。
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腰椎のサブラクセーションを除去し、椎間板への捻じれ負荷を解く。
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的確な鑑別診断を行い、仙腸関節など他の原因(偽の坐骨神経痛)を見極め、調整する。
実際に、病院で「ヘルニアによる坐骨神経痛」と診断された患者さんの仙腸関節を調整したところ、その場で症状が消失した例を私は数多く診てきました。 画像(構造)だけに惑わされず、身体の機能的な不調を見抜く力。それが、これからの治療家に求められる真の診断力です。
本学で、その「鑑別する目」と「治せる手」を養っていきましょう。

この記事を書いた人:榊原 直樹
徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)
1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。