【学長コラム】距腿関節のバイオメカニクス:足首捻挫が起きる本当の理由

この記事の要旨

足首(距腿関節)は単純な曲げ伸ばしをしているように見えますが、実はミリ単位の非常に精巧で立体的な動きをする関節です。本記事では、日常的によく起こる「足首の捻挫」の裏に隠されたバイオメカニクスをわかりやすく解説します。

  • つま先立ちで捻挫しやすい理由: 足首の要となる骨(距骨)は前側が広く後ろ側が狭い形状をしています。そのため、つま先を下げた状態(底屈)では関節にゆとりができ、構造的に捻挫しやすくなります。
  • 足首を支える「細い骨」の大きな役割: 足首の外側にある細い骨(腓骨)は、体重がかかるとミリ単位でしなやかに下へ動き、関節をガッチリとかみ合わせて安定させる重要な働きを持っています。
  • 捻挫が残す「見えないズレ」: 過去の捻挫をそのままにしておくと、骨が本来の位置から前方にズレたままになり、足首を上に向ける動き(背屈)が著しく制限される原因になります。

徒手療法大学の学長コラムへようこそ。

日々の臨床で多くの患者さんの足を診察したり、あるいは私自身が毎朝のトレーニングでしっかりと床を踏み込むたびに、足首(距腿関節)の精巧な作りに驚かされます。

足首は一見するとドアの蝶番(ちょうつがい)のように、ただパタパタと上下に動いているだけのように思えるかもしれません。実際、距腿関節は蝶番関節に分類され、足首を上に向ける動き(背屈)は10°〜20°、下に向ける動き(底屈)は20°〜50°の可動域を持ちます。

しかし、その内部ではミリ単位の非常に複雑でダイナミックな動きが起きています。今回は、専門的なバイオメカニクスの知識を、なるべくわかりやすく紐解いていきましょう。

距腿関節 バイオメカニクスの理解に欠かせない足部・足関節の骨格解剖図。脛骨と腓骨の下で関節の土台となる「距骨(きょこつ)」が赤色で強調されている。

1. 距腿関節のバイオメカニクス①:なぜ「つま先立ち」の時に捻挫しやすいのか?

足首の土台となっている「距骨(きょこつ)」という骨には、とても面白い特徴があります。実はこの骨、真四角ではなく、前側が後ろ側よりも平均して約4.2mm幅広になっているのです。

手書き風の足部骨格図。距腿関節 バイオメカニクスの鍵となる「距骨」が赤く強調され、前側が後ろ側より「平均約4.2mm」幅広いという形状特性が手書きの注釈で示されている。

これが何を意味するのでしょうか?
足首を上に向ける(背屈する)と、この幅広の部分が脛(すね)の骨の間にくさびのように入り込み、関節が1mm〜2mmほど押し広げられてガッチリとかみ合います。そのため、距腿関節は非常に安定します。

逆に、足首を下に向ける(つま先立ちのような底屈状態になる)と、距骨の細い部分が関節にはまるため、関節に「ゆとり(緩み)」が生まれます。背屈位よりも底屈位のときに足関節の捻挫が圧倒的に多く発生するのは、構造上このポジションが最も不安定になるからなのです。

2. 距腿関節のバイオメカニクス②:足首は「斜め」に動いている

足首の曲げ伸ばしは、定規で引いたような真っ直ぐな動きではありません。
関節が中立位にある時、運動の軸は正面(前額断面)から見ると平均23°後ろに傾き、上(横断面)から見ると14°下に向かって傾いています。

距腿関節 バイオメカニクスの要となる足関節の運動軸を示した骨格図。足首の運動軸が真っ直ぐではなく、前額断面から平均23度、横断面から14度傾いていることを示している。

この絶妙な傾きがあるため、距腿関節は以下のような複雑な3Dの動きを同時に行っています。

  • 足首を上に向ける時(背屈): 単に上がるだけでなく、少し外側へ向きながらねじれる(外旋+内反)。
  • 足首を下に向ける時(底屈): 単に下がるだけでなく、少し内側へ向きながらねじれる(内旋+外反)。

3. 細い骨(腓骨)の隠れた大仕事

ふくらはぎの外側にある細い骨「腓骨(ひこつ)」は、体重の10%以下しか支えておらず、残りの90%以上は内側の太い骨(脛骨)が支えています。

「じゃあ、あまり役に立っていないの?」と思うかもしれませんが、とんでもありません。
私たちが立って体重をかけると、この腓骨は平均2.4mmスッと下へ移動します。これによって関節が強くかみ合い、外側の安定性がグッと増すのです。さらに、距腿関節の動きに合わせて、腓骨は外側へ、上へ、そして後ろへと、靭帯に引っ張られながらミリ単位でしなやかに動いてショックを吸収しています。

4. 捻挫が残す「見えない後遺症」

臨床の現場で非常に重要なのが、過去の捻挫歴です。
足首の捻挫を経験したまま適切なケアを怠ると、脛骨、腓骨、距骨に特有の「ズレ(変位)」が生じます。

具体的には、土台である距骨や、外側の腓骨が「本来の位置より前方にズレたまま」になってしまう傾向があります。こうなると骨同士がぶつかってしまい、「足首を上に向ける(背屈)」という動きが著しく制限されてしまいます。

距腿関節が硬いと、しゃがむ動作がうまくできなかったり、膝や腰に負担をかけたりと、全身のバランスを崩す原因になります。だからこそ、私たちカイロプラクターや徒手療法家が、ミリ単位の関節の遊び(ジョイントプレイ)を正確に評価し、正しい位置へと導くアプローチが不可欠なのです。


距腿関節のバイオメカニクスを知れば知るほど、人間の身体の精密さに感動を覚えます。徒手療法大学では、こうした基礎医学をしっかりと学び、根拠(エビデンス)に基づいた本物の技術を持つ治療家を育成しています。

将来カイロプラクターを目指す方、そして足首の硬さや過去の捻挫にお悩みの方は、ぜひ徒手療法大学や専門のカイロプラクターにご相談ください。

榊原直樹

この記事を書いた人:榊原 直樹

徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)

1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。

名古屋・神戸・札幌のカイロプラクティックスクール|徒手療法大学ではカイロプラクティックを学びたいという将来のカイロプラクターを募集中です。

徒手療法大学学長コラム「距腿関節のバイオメカニクス」のアイキャッチ画像。足首の骨格に精密な歯車や光の軌跡を重ね合わせ、ただの蝶番ではない複雑な動きと捻挫のメカニズムを視覚的に表現したイラスト。
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