皆さんも一度は耳にしたことがあるかもしれません。Appleの創業者、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った伝説のスピーチをご存じでしょうか。
彼が死を目前にして語った「人生で大切な3つのこと」。このメッセージは、これからカイロプラクターという道を歩もうとしている、あるいは歩み始めたばかりの皆さんにとって、非常に重要な指針を含んでいます。
彼の哲学と、私がカイロプラクターとして、そして教育者として皆さんに伝えたいことを重ね合わせ、今日のコラムを書きたいと思います。
1. 点と点をつなぐ (Connecting the dots)
この記事を読んでいる方の中には、カイロプラクティックという仕事に興味を持ち、「カイロプラクターになりたい」と志している人がいるでしょう。
では、なぜそう思ったのでしょうか? 「なんとなく面白そうだから」「直感でこれだと思った」 最初はそんな軽い動機だったかもしれません。しかし、ジョブズは言います。「自分の直感を信じなさい」と。
私自身を振り返ってみても、最初から今の自分――アメリカで開業し、その後帰国して医学博士を取得し、こうして学長として後進の育成に励んでいる姿――を想像できていたわけではありません。当時はただ、目の前のことに必死でした。しかし、10年、20年と経って振り返ってみると、当時の経験の一つひとつが、今の私につながっていることに気づかされます。
「未来を見て、点と点をつなぐことはできない。過去を振り返った時に初めて、点と点がつながっていることに気づくのだ」
まさにその通りです。最初から全てを見通すことは誰にもできません。だからこそ、自分の直感を信じて、今この瞬間に全力を尽くすしかないのです。
これから勉強を始める皆さんにとって、日々の解剖学の暗記や、アジャストメント技術の反復練習、それらの一つひとつが「点」です。今はその意味が完全には見えなくても、知識と技術の習得に全力を尽くしてください。そうやって積み重ねた毎日という「点」が、いつか振り返ったとき、確かな「道」となってつながっていることに気づくはずです。

2. 仕事を愛すること (Love what you do)
ジョブズはスピーチの中でこう断言しています。
「偉大な仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することだ」
私も臨床家として、教育者として、これを痛感しています。断言しますが、自分のやっていることを愛せない人間は、決してその道のプロフェッショナルにはなれません。
仕事を愛せず、嫌々ながら事務的・義務的にこなしている人が、人の身体を預かるこの領域で成果を上げることは難しいでしょう。それどころか、そのような状態で過ごす時間は、自分自身の生命の無駄遣いでもあります。時間は命そのものです。限られた人生の時間を、情熱を持てないことに費やすのは、とても不幸で不憫なことです。
もし皆さんが「カイロプラクティックが好きだ」「患者さんを治したい」という熱い想いを持っているなら、それだけで素晴らしい才能の種を持っていることになります。その情熱を絶やさず、追求し続けてください。
3. 今日が最後の日だと思って生きる (Live each day as if it were your last)
「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」
ジョブズは毎朝、鏡に向かってそう問いかけたといいます。
これを我々カイロプラクターの現場に置き換えると、一期一会という言葉の重みになります。
臨床の現場に立つと、数え切れないほどの治療を行うことになります。しかし、目の前の患者さんにとっては、その一回がすべてかもしれません。中には一回きりの来院で終わる方もいます。つまり、チャンスは一回だけなのです。
カイロプラクターとして最も大切な心構えは、常に「その患者さんの治療は、これが最後かもしれない」という覚悟で臨むことです。
同じ手技、同じ問診を何十年も続けていると、どうしてもマンネリ化やルーティンワークに陥るきらいがあります。しかし、プロとしてそれは絶対にありえません。 「昨日の自分より、今日の自分の方がより良い治療ができるか?」 そう問いかけ続け、進化していくのが当たり前であり、それを常に意識して日々を過ごす必要があります。
カイロプラクターになると決意した日から、その研鑽は一生続きます。
「ハングリーであれ。愚かであれ(Stay Hungry. Stay Foolish. )」
ジョブズが最後に贈ったこの言葉のように、現状に満足せず、常識にとらわれず、愚直にこの道を歩み続けていきましょう。

まとめ
スティーブ・ジョブズの言葉は、IT業界だけでなく、私たちカイロプラクターの生き方にも通じる普遍的な真理です。
目の前の学習や臨床に全力を尽くして「点」を打ち続けること。 この仕事を心から愛し、情熱を注ぐこと。 そして、「一期一会」の覚悟を持って、マンネリを排し進化し続けること。
これらは、単なる技術者ではなく、患者さんの人生に寄り添える「真の治療家」になるための必須条件です。皆さんの進む道は決して平坦ではないかもしれませんが、自身の直感を信じ、ハングリーに、そして愚直に歩み続けてください。その先に、あなたにしか描けない「点と点のつながり」が必ず待っています。
【徒手療法大学 公式メディア】
最新の講義情報、解剖実習の様子、ボランティア活動の報告などを発信しています。
-
Twitter (X) https://x.com/Manual_Therapy_
-
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@manual_therapy_college
この記事の筆者

徒手療法大学 学長 米国カリフォルニア州政府公認 ドクター・オブ・カイロプラクティック (D.C.) 医学博士 (Ph.D. in Sports Medicine)
米国ロサンゼルスにて10年間、カイロプラクターとして臨床に従事。2007年に日本へ帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。 その後、名古屋駅前にてカイロプラクティック治療院を開院し、18年以上にわたり臨床の最前線に立ち続ける。現在は徒手療法大学の学長として、自身の経験と医学的根拠に基づいた「進化し続けるカイロプラクター」の育成に情熱を注いでいる。