【学長コラム】外側上顆炎に対する徒手療法の最新アプローチ:テニス肘の根本改善を探る

【この記事の要旨】

本コラムでは、日常の臨床で頻繁に遭遇する「テニス肘」の根本改善に向けた最新の知見を解説します。外側上顆炎に対する徒手療法をより効果的なものにするため、以下の重要なポイントをまとめました。

  • 名前に潜む誤解: 単なる使いすぎによる「炎症」ではなく、多くは腱の変性(腱症)が起きているという事実。
  • 年齢による違い: なぜ子どもは外側上顆炎になりにくいのか?組織の柔軟性と牽引負荷のメカニズム。
  • 見逃してはならない2つのポイント: 慢性的な痛みの原因となりやすい「橈骨神経の滑走障害」と「橈骨頭の運動障害」。
  • 実践的アプローチ: 徒手療法(関節モビライゼーションや神経滑走)と運動療法(エキセントリック・トレーニング)を組み合わせたマルチモーダルな介入の重要性。

長引く肘の痛みに悩む患者さんを根本からサポートするための、臨床家および学生必見の内容です。

読者の皆様、こんにちは。徒手療法大学の榊原です。

私も毎朝1時間の筋トレを日課としていますが、バーベルやダンベルをしっかりと握る際、前腕から手首、そして肘にかけての連動性がいかに重要かを日々身をもって感じています。

さて、今回のコラムでは日常の臨床現場で頻繁に遭遇する「外側上顆炎(テニス肘)」を取り上げます。この疾患に対する徒手療法の効果的なアプローチと、運動療法との相乗効果について、最新の医学的知見を交えて解説します。

病態のメカニズム:外側上顆炎という名前に潜む誤解と年齢による違い

「外側上顆炎」という病名を聞くと、文字通り外側上顆に「炎症」が起きているように思われがちです。もちろん、運動直後などに急性炎症を起こしているケースはありますが、実際に慢性化して起こっているのは、短橈側手根伸筋(ECRB)など外側上顆に付着する腱の変性(Tendinosis:腱症)です。

このメカニズムを理解すると、なぜこの疾患が小中学生などの子どもには起こらないのかが腑に落ちるはずです。子どもの場合、成人と違って腱自体に十分な柔軟性があり、優れた衝撃吸収能力を持っているため、腱そのものを痛めることは稀です。その代わり、筋肉の収縮によって腱が付着している骨側、すなわち「外側上顆」に強力な牽引負荷がかかるため、この骨の部位に痛みを訴えるのです。

徒手療法家が見逃してはならない外側上顆炎の2つの重要ポイント

外側上顆炎の徒手療法における2つの重要ポイント(橈骨神経と橈骨頭)を解説するタブレット画面

成人における外側上顆炎は単なる炎症ではないため、組織の再構築(リモデリング)を促す積極的な介入が求められます。しかし、腱へのアプローチ以外に、我々徒手療法家が見逃してはならない極めて重要な構造が2つあります。

  1. 橈骨神経(Radial Nerve)の関与 外側上顆周辺を下行する橈骨神経(およびその後骨間神経枝)は、しばしばこの疾患における痛みの真の原因構造となります。特に症状が慢性化している場合、単なる腱の問題ではなく、周辺組織の癒着などによる神経の絞扼や滑走障害(Neurodynamic dysfunction)が強く疑われます。 (※近年の研究においても、橈骨神経に対する神経モビライゼーション/ニューロダイナミック治療が、外側上顆炎の症状緩和に有効であることが示唆されています:Effectiveness of neurodynamic treatment in managing lateral epicondylitis: a systematic review, 2024 等)

  2. 橈骨頭(Radial Head)の運動障害 外側上顆炎の患者において、腕橈関節(橈骨頭)の運動障害(可動域制限や関節の遊びの消失)は「ほぼ必ずセットでついてくる」と言っても過言ではありません。回内・回外運動の軸となるこの関節の機能不全を放置したままでは、いくら局所の腱や筋肉に徒手療法を施しても根本的な解決には至りません。

外側上顆炎に対して臨床で実践すべき徒手療法のアプローチ

現在のスポーツ医学分野では、これらを総合的に評価し、複数のアプローチを組み合わせる「マルチモーダル・アプローチ」が強く推奨されています(Wallis JA, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2024 等)。現場で実践すべき具体的なステップは以下の通りです。

  • 関節モビライゼーションと神経滑走(Nerve Gliding) まずは必須となる橈骨頭の関節モビライゼーションを行い、正常な関節運動を回復させます。同時に、橈骨神経に対するニューロダイナミック・テクニック(スライダーやテンショナー)を用い、神経の滑走性を改善して痛みのシグナルを遮断します。

  • 変性組織への徒手介入 腱組織に対しては、癒着組織の解放などを適切に行い、組織の修復プロセスを物理的に刺激します。

  • バイオメカニクスの修正 肘局所だけを見るのではなく、手関節の制限や、肩甲帯・胸椎の不安定性が結果的に肘への過剰な負担を生んでいるケースを評価し、必要なアジャストメントを行います。

  • エキセントリック・トレーニングの指導 患者さん自身で行えるリハビリとして、手首の伸展方向へゆっくりと負荷をかけていくエキセントリック・エクササイズを指導し、徒手療法と併せて腱組織の強化を促します。

外側上顆炎の治療において、理学療法士が患者の前腕外側部の筋肉や腱に対して徒手療法を行っているクローズアップ写真。親指を使って患部を圧迫し、変性した組織の癒着を解放しようとしている様子

おわりに

外側上顆炎の改善には時間がかかることも多く、患者さん自身の根気も必要になります。だからこそ、局所の腱だけでなく、神経や関節のバイオメカニクスを含めた「全体像」を捉えることが重要です。最新のエビデンスに基づいた的確な徒手療法と、正しいエクササイズ指導の両輪でサポートしていくことが、我々プロフェッショナルに求められる役割です。

学生の皆さんも、ぜひ日々の学びと臨床実践の中でこの視点を取り入れてみてください。

榊原直樹

この記事を書いた人:榊原 直樹

徒手療法大学 学長 / 米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック (DC) / 医学博士 (PhD)

1998年に米国カリフォルニア州でDCライセンスを取得し、ロサンゼルスで10年間臨床に従事。帰国後、岐阜大学医学部にてスポーツ医学の医学博士号を取得。現在は名古屋駅前での臨床の傍ら、徒手療法大学(名古屋・神戸・札幌)の学長として後進の育成に尽力している。
2000年よりヴィパッサナー瞑想を実践し、毎日の瞑想を日課とする。心身両面からのアプローチを探求し続けている。

名古屋・神戸・札幌のカイロプラクティックスクール|徒手療法大学ではカイロプラクティックを学びたいという将来のカイロプラクターを募集中です。

外側上顆炎に対する徒手療法のアプローチを解説するため、緑のスクラブを着た男性が肘関節(橈骨神経・橈骨頭)の解剖図を指差している画像
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